人魚の一族はもうおらず、最後の人魚は毒されていた。
海の汚れで肌が爛れ、色は黒く、あまり目もよくなかった。
泳ぐのさえも上手くはない。
孤独な人魚はあてもなく海を彷徨った。
どこかの海域には仲間たちがまだ暮らしているかもしれないが、見つけられない。
クジラもイワシもヒレで泳いで歌を唄うが、言葉がわからない。
終わりのない孤独で気が触れかけて、それでも人魚は考えるのをやめることはできなかった。
死にたいと砂浜へ上がったのに彼女は肺呼吸ができた。
鱗が剥がれる痛みに泣きながら、死ねずに陸を這う彼女の元に人間が来た。
人間は仲間を呼んだ。殺されるのか。
違った。
人魚の一部はかつて人と交わりを繰り返し、やがて子らは人間と変わらなくなったという。
人間が服を脱ぐと、腕に、足に、うなじに、たった一枚の鱗があった。
一枚きりの鱗が、人魚の血を引く最後の証。
彼らが笑うと鱗がきらきらと陽を反射して、水面のさざなみのように揺れた。
人魚は泣いた。枯れた声で泣いた。
彼らが人魚と同じ歌を唄ってくれたから。
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【さよならマーメイド】20140130