ひかりの飴屋がやって来た。
どうしてそう呼ばれるかって、屋台の看板にそう書いてあるからだ。古い木に手書きの毛筆で。
色とりどり、うすく向こうが透けて見える、きれいな飴細工。
今日もたくさん、箱に挿して売り歩く。
ただ子供たちは出来合いのものより、飴屋が目の前で作るものがすき。
ハサミでくるくる、ぱちんと、指でくにくに、龍のヒゲ。
飴屋の道具は、箱とハサミとその手だけ。見事なもので。
子供がどんな動物をリクエストしたって、必ず応えてみせる。できないのは人間ただひとつ。
飴屋の正体は不明。男にも女にも見える。たぶん若い。ほとんど喋らないけれど、子供には甘い。
使う飴は、不思議なくらい透き通っている。子供たちは口を揃えて、魔法のように美味しいのに、食べ終えると思い出せない味、と語る。
まるで覚めたら忘れてしまう夢みたいなもの。
飴細工はなにでできてる?
きみは答えを知っている。光さ、リビングを照らすのとおんなじ光。
それも多種多様、一年中あちこちで捕らえたものたち。
縁側で眠る猫に降り注ぐ午後三時の光。麦わら帽子と子供の肌を焦がす真夏の光。窓辺で少女が開いた本へ落ちる図書室の光。
いろとりどり、とてもきれい。
真夜中。
飴屋は屋台を引いている。どこへ行くのか誰も知らないが。
裸足の女が歩いてる。飴屋は小鳥を差し出した。
家出少年に犬を、猫背の男に獏の飴。
ちかごろ深夜まで出歩く者が多いもので。
誰かが、のんびり店をひく飴屋に悩みの種を打ち明ける。
飴屋はすべての相手に飴を差し出す。まるで全てを解決するみたいに堂々と。
カラフルな小さい光を、相手の胸に灯すように。
飴でも食べて、勝手に救われたらいい。
飴屋のそんな気持ち。
真夜中の星々は大人たちの悩みを飲み込んで、深く幽かな光を投げかける。こいつもきちんと集める。
遠くへ行こう。飴屋はまた店をひく。
からから車輪が音たてて、お化けみたいに真っ直ぐ伸びた道を延々と真っ直ぐ。
オーストラリアの珍しい鳥でも見にいこうか。
ひかりの飴屋がやってくる。
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【ひかりの飴屋】2014/11/29