高校生のときは鬱屈していた。

友達がいなかったし、作ろうとしても誰とも対等に話せなかった。

そんなことが何年か続いた。

体育の授業があった。

走り高跳びの基礎練習で、まずはバーより高いところに立って、後ろ向きに体を投げ出す感覚を掴むということだった。

先生が、誰か試しにやれと言った。

陸上部でもないわたしたちは後ろ向きに落ちることに躊躇した。

わたしは挙手をして、一番はじめにやることにした。

自分の腰より少し低いくらいにあるバーを背後に意識して、台の上に立つ。

一瞬、意識が遠くへ向けられるのを感じた。

ここにいる誰とも繋がっておらず、安心などとは縁遠く、毎日感じていた、どこにもいないような感覚を思い出した。

守るものは何もない。

そう思うと、この世界よりもわたしの着地を待ち受けてくれるマットの方が優しく思えた。

おかしなことかもしれないが、わたしはそのとき地面を信頼した。

ふっと体の力が抜けて、跳躍し、身を翻した。バーに触れた感覚はなく、衝撃も大してないまま少し汗臭いマットに寝転がっていた。

お手本のようにきれいな着地だと先生が褒めた。

体が高揚するのを感じる。

このままずっと地面に甘えていたいような気持ちだ。

落ちたら受け止めてくれる地面。

自分の輪郭もわからなくなった世界の中で、きちんと硬く、そこに居続けてくれる。

わたしはそのときから落下中毒となる。

 

そのはじまり、世界一低い身投げだった。

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【フリーフォール】2017/2/21