Kくんのポケットの中にはお婆ちゃんが住んでいる。

誰のものでもないお婆ちゃんだ。

Kくんがスマホをポケットにしまうと、お婆ちゃんは流行に着いていこうと、スマホを触る。

デタラメに弄るから、Kくんがスマホをポケットから出すと知らないアプリが起動していたり、勝手に電話をかけていたりする。

そのたび、Kくんは着信履歴の相手に謝ることになる。

 

あるときKくんがポケットからスマホを出すと、血がいっぱい付いていた。

お婆ちゃんの吐血だ。

お婆ちゃんはいつの間にか重い病気にかかっていた。

Kくんはお婆ちゃんのことを知らない。

だから仰天して自分の身体に怪我がないか確かめ、ズボンを洗濯した。

お婆ちゃんは日に日に弱る。

Kくんがポケットにスマホを入れても、何もしない。

Kくんのスマホに着信履歴が増えなくなる。

Kくんはホッとする。

 

お婆ちゃんは苦しくて、もうだめなのがわかって、Kくんのスマホに手を伸ばす。

少しは使い方も覚えたのだ。

 

Kくんがスマホをポケットから出すと、勝手にメールアプリが開いていた。

 

さよなり

 

Kくんは「さよなら」みたいだなと思いながら、ちょっと不気味だからメールを消した。

 

お婆ちゃんはポケットの底で事切れていた。

 

Kくんはお婆ちゃんを知らない。

 

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【ポケット】2017/07/19