何千年と戦争が続いた。

精神の砂漠で起きる、人間一人一人の戦争だ。それには苦悩という名前がついていた。

人間は戦争をやめることができない。

 

それに心を痛めた月が、武器を生み落した。

月の石が欠けてつくられた砂でできた戦車。

 

人間の心の砂漠を、戦車は走る。

ぶろろろろ。

砂漠はいつも夜。

 

道を照らす星はなく、月はいつも雲の中に隠れて朧に光っている。

月のような銀色をした戦車が、音のない砂漠を進む。

 

砂が凝固して肉をもった人形になり、砂漠をうろうろしている。

それを倒すのが戦車の仕事。

戦車の砲弾が砂人形にめり込むと、砂が爆ぜるのと同時に悲鳴が砂漠を切り裂いた。

砂でできた敵は、人間の心を奪う苦悩のひとつひとつ。

それをひとつひとつ殺していくのが戦車の仕事。

 

静かな砂漠に悲鳴が吸い込まれていく。

戦車はまっすぐ走る。砂人形は尽きそうもない。敵は不死身だ、気を付けろ。

 

未来はどっちにあるのだろう。

 

戦車は方向がわからない。しあわせなんてわからない。

ぶろろろろ。

月があの雲から顔を現してくれさえするなら、この戦争は終わるような気がした。

それを待ちながら、戦車はなめらかに脈打つ砂に柔らかい轍を作り、少しずつ進んでは砲弾を発射する。

 

人間一人一人の戦争を終わらせるために、戦車があなたの中でも戦っている。

ひとりぼっちだが、戦車は強い。

 

だから夜更けに一人で涙することはない。

 

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【月と戦車】2014/11/20