高校三年の夏、俺は超能力者になれる方法を探していた。昼休みの図書室で。
「きみさあ、こんなとこにいたの」
話しかけてきたのは教室で、いつもは女子に囲まれてる肌の色も髪の色も薄い男。イケメン。接点はほぼない。
「なんか用?」
俺は机に本を山積みにしていてそのうち一冊も読み切っていないんだけど、これを積み上げてるうちは受験勉強なんかよりずっと大切なことがあるのだ。たぶん。
男、新山は机の上につつつっと指を這わせてそのまんま反対側にいる俺のところに来る。
「最近あんまり教室にいないから、何してるのかなって」
「そんで探してたの? え、なんで」
「……ヒマだから」
「あっそう」
俺はニーヤマを無視して本に目を戻す。ニーヤマは思い切り前のめりで俺の手元を覗き込んでくる。なんだこいつ。
「なんか超能力とかオカルト系の本ばっかだね」
「あーまあ。俺、超能力者になりたいから」
「ふーん」
すごいどうでも良さそうな相槌。信じてないんだろうな。俺だって信じてない。
だって大学入ったって就職したって、つまんないだろ。誰にでもできることを必死に覚えて、そこに食らいついて生きていくのが目に見えてる。俺みたいな凡人は。どうせ。眠った超能力が目覚めるくらいしないと、俺の人生が面白くなる気がしない。いつも人に囲まれてやけにキラキラしてる、ニーヤマみたいな人間は違うんだろうけど。
あ、ちょっと腹立つ。
「キョーミないならどっか行けよ。読書の邪魔だし」
「じゃあ僕さあ、殺し屋になろうかなあ」
「は?」
余計腹立つ。合わせようとしてこなくていいから。
「殺し屋って、頼んだら誰でも殺してくれんの?」
「うーん。というか、きみを殺したいかも。ばっきゅーん、って」
ニーヤマは両手で銃を作って俺に突きつけ、ばっきゅーん、と撃つふりをする。ウィンクつきでなんか昔のアイドルみたいだ。名前は思い出せないけど。
「なにそれ意味わかんね」
「これが僕の精一杯なんだけどなあ」
ニーヤマは何故か困ったようにはにかんで、図書室を出て行く。
宇宙人と遭遇した気分だった。
俺にはマインドリーディングがないから、奴の考えなんてわからない。
そして俺はどうにか平凡な大学に進学して自分が超能力者になれないことを噛み締めたし、特別性のニーヤマはアメリカに行って話すことはもうない。
俺は図書室のことをごくたまに思い出して、やけに引っかかるあいつの言葉や表情を凡人なりに必死に読み解いてみる。たぶんだけど、あいつ俺のこと好きだったんだろう。表現が不器用すぎる。
なんとなくニーヤマとは死ぬまで会わないような気がするから、あのとき一発ヤっときゃよかった。
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【超能力者と宇宙人】2017/06/30