ゴミ出しに出ると朝が来ていました。

夜闇に紛れてゴミを捨ててしまうつもりだったので、俺はばつが悪い思いをしました。

空があかるい。

 

太陽が星を殺して、虹色の雲が道の向こうから来るところでした。

水分をたっぷり含んだ空気が頬に触れて、澄んだ匂いを放っていました。

 

俺は自分のことを奴隷だと思いました。

自殺した文豪を辿るように、死を想うことが文学に繋がると思い込んでいました。

誰も彼も芸術家は自殺していました。

だから俺も、死んで芸術が完成すると思い込んでいたのです。

死にさえすれば、丸めたティッシュを放り捨てたような作品が芸術に昇華するとさえ思っていました。

 

芸術以外のことが何もできない偏った才能の持ち主でなければ、芸術家になれないと思っていました。

だから、すべての時間を作品作りに捧げたいと自分に思い込ませようとしていました。

これがなければ生きていけないのだと、信じようとしました。

 

結局、俺は誰かの意見や生き様や方法論を、そっくりなぞることで自分の価値を高めようとしていたのです。

俺は成功した誰かの足跡から外れないよう、慎重に自分の靴底を重ねていただけでした。

 

いつの間にか俺は誰かの手垢にまみれて、自分が見えなくなっているのでした。

それは奴隷です。

足に鎖がかかっていると錯覚して、自分から鍵のない檻に閉じこもるようなものです。

自由とは、それができない人間にとってはとても難しいものなのかもしれません。

 

俺は何を、どうしたいのでしょうか。

何になり、どう生きたいのでしょうか。

朝焼けを見ただけでこんなにも自問自答する自分を、俺は馬鹿だと思いました。

けれど、考え込んでしまう自分のことがそこまで嫌いではありませんでした。

 

何者でもなく、これからも何者にもならない俺は、今ただ、朝の空気を吸い込んで肺を透明にするだけでした。

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【ゴミ出し】20170425