【緑と花の、】過去話

 

 

ゴールデンウィークを過ぎて久し振りに学校へ行くと、緑が増えていることに驚く。正門横に生えている木も、植え込みも、深い緑色の葉が生き生きと朝露に濡れていた。

衣替え移行期間が終わって、ほとんどの生徒はこの日から夏服になる。

私は、花岡みどりの夏服をこっそり期待していた。

花岡みどりは、今年初めて同じクラスになった女の子だ。

きれいで凛とした少年のような清潔感がある子で、彼氏にしたい、なんて冗談交じりに呟く女子がたくさんいる子だった。

私は先日の衣替えで隣の席になり、他の女子からも男子からも羨望の眼差しを受けていた。

そんな評判の彼女の夏服はきっと似合うに違いないと、なんだか胸をときめかせていたのだけれど。

登校時間ギリギリになって現れたみどりの白と紺のセーラー服に、何故か私はモヤモヤとした気持ちになった。

「おはよう、花奈子」

みどりの夏服姿はきれいだった。

左右ぴったり同じ長さに結ばれたリボンに、半袖の白いセーラー服から伸びる健康的な腕と三回くらい折り曲げた短いスカート。

かなり大胆に足を露出していると思うけれど、みどりが化粧をしないせいか派手すぎる印象はなく、むしろ快活なイメージだった。

私は一回だけ折ったスカートをくしゃりと握った。

「……みどり、夏服似合うね」

なんでモヤモヤとした気持ちになるのだろう。同性としての嫉妬かと最初は思った。けれど、みどりに挨拶をする他の生徒が彼女に見惚れているのを見て気付いた。

「……そんなにきれいな格好してたら、みんながみどりをもっと好きになっちゃう」

声にしなかった私の気持ちは、要約するとこういうことだったように思う。

考えて考えて、その気持ちにやっと気付いたその日の昼休み、私は恥ずかしさに赤面した。

そんな気持ち、まるで独占欲だ。

みどりはただの友達なのに。

……ただの友達なのだろうか?

「みどり、スカート短すぎると痴漢に遭っちゃうよ」

「痴漢が狙うのは声を上げられそうにない女の子だから、わたしは大丈夫。花奈子は可愛いのに大人しいから心配だよ」

そんなに優しい笑顔をしないで。

私は、みどりと対面でお昼ご飯を食べることに緊張していた。

汚い食べ方をしていないか、口からパンくずを落としてしまわないか。恥ずかしくて、一口ごとに口元を手で隠してしまう。

そしてその度、私がみどりに抱く気持ちはただの友達に対するものなのか、わからなくなっていく。

一緒にいると胸が痛いほど高鳴って、すこしだけ自分が嫌いになって、みどりの一挙一動を深読みする。

 

あと少しで、私はみどりへの恋を自覚する。

そういう初夏だった。

 

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【若芽が吹く頃】2017/06/05